未だに知らない

本や漫画、映画の記録帳です。

吾輩の部屋である

一人暮らしをしていると、なんやかんやと面白いことがあります。
誰に言うでもない、面白い出来事。
それが詰まった漫画です。

本作の主人公「鍵山哲郎」は工学部の大学院生で、彼も東京で一人暮らしをしています。
彼が部屋で繰り広げるなんやかんやが描かれる、それだけの漫画です。
メールや電話で友人や先輩、家族、そして憧れの君「植村さん」も出てきますが、絵としてはいちども描かれません。
だいぶずれた哲郎の発言や行動に突っ込みを入れるのは電球や酒瓶、炊飯器などの部屋に置かれたものたちという(笑)
しかし最高に面白い!
久しぶりに当たりの漫画を読んだな〜と満足しました。

この漫画は、部屋の中の哲郎の視点しか描かれません。
それって、客観視しようがないんですよね、読者としても。
哲郎にとっての「吉田」「植村さん」「教授」…。
普通の物語はいろんな登場人物が出てきて、それぞれの立場の考え方や感じ方が描かれて、読者はいろんな想像ができるけど、本作にはそれがない。
自分が感じたことだけが全て。
我々の人生と一緒ですね。

一番笑ったのは、3巻に収録されている「ぬいぐるみ高機能化構想」です。
植村さんの誕生日のプレゼントを考える哲郎の迷走ぶりに、声を出して笑ってしまいました。
カエル…(笑)

早く続きが読みたいなあ〜。

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これでこいつは体内に8ギガバイトのデータを保有できる生物に進化したわけだ。(3巻P88)

吾輩の部屋である 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

 

シャルロットの憂鬱

犬が好きです。
飼育頭数で猫が犬を追い越しそだというニュースを読んだときは、犬派の原理主義者として歯がゆい思いをしました。
高齢化や単身世帯の増加で飼いやすい猫の方が人気だそうで。
かくいうわたしも、実家にいた頃は犬を飼っていたが、一人暮らしになって以来、「犬飼いたいなあ」と毎日のように思いますが、実現できていません。
我が家のペットは2匹の金魚だけ。
だから、本屋の単行本コーナーをうろついていた時に、この本にスイ〜と吸い込まれてしまいました。
白根ゆたんぽさんの描く犬たちが可愛いんですよ。
正直、半分くらいはジャケットで買いました。
警察犬を引退したメスのジャーマンシェパードの「シャルロット」を飼い始めた、子供のいない夫婦の短編集。
作者は近藤史恵さんなので、もちろん推理ものだ。

謎はですね、当然「へえ」と思うオチがついているのですが、とにかく、出てくる犬が可愛いんですよ!!!!
犬を飼った経験のある人なら必ずわかる犬の仕草が満載。
「ぺたんと耳を寝かせ、わたしたちの顔を見上げる。」(P14)
「さわちゃんが去っていくのを、シャルロットは門扉に鼻を押し付けて見送っていた。」(P52)
「口が開いて笑っているような顔になる。」(P133)
「シャルロットは、なぜか鼻をすんすんと鳴らした。」(P217)

「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」を頭のなかで繰り返しながら読み終えました。
犬派の同志の方はぜひお読みください。
あっという間に読み終えるかと。


なお、猫のこともそれなりに好きです。

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シャルロットが不思議そうにわたしを見上げた。
だからわたしは笑った。
「大丈夫よ。シャルロットがいるもの」
犬がいると落ち込んではいられないのだ。(P64)

シャルロットの憂鬱

実写映画「美女と野獣」

アリアナ・グランデジョン・レジェンドが歌う主題歌の映像があまりに素晴らしくて興味を持ち、字幕版を見に行ってみました。
レイトショーだったのに、めちゃくちゃ混んでいて、けっこう前の席になっていまい見づらかったのですが、良かった!

実はアニメーション版を見たことないという無知っぷりでしたが、それは全然関係なかったです。見てたらもっと楽しめたんでしょうけど。

ベル萌え、野獣萌えです。

エマ・ワトソンが美しすぎて震えました。
黄色のドレス姿の華やかさといったら!
そして、見た目だけでなく、反抗的に世の中に立ち向かう姿勢がかっこよかったです。

野獣がベルを思って歌う「ひそかな夢」は、アニメーション版にはない歌らしいのですが、切なく、かつ希望に胸を焦がすような内容で…。
昔、コブクロのアルバムのCMで、「一瞬のためなら、一生生きられる」というキャッチコピーが使われていたことがあるのですが、それを思い出しました。

あと、ゲイらしき主要登場人物がいたり、多様な人種が出ている点も好感が持てました。
世の中が「差別」を容認するような雰囲気になる中で、娯楽作品を生み出すディズニーの矜持を感じました。

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昔からの物語
変わらぬ真実
拒んでいたのに
思いがけず
心が通う
かすかな変化
ほんのわずか
こちなくためらう
美女と野獣
(主題歌より)



八雲さんは餌付けがしたい。(1〜3巻)

食系漫画が次々と出されている昨今、久しぶりにヒットでした。
好きなんですよね、食系漫画。
家で再現料理もしますが、「八雲さん~」はあまり再現料理をするような感じの漫画ではありません。レシピもぜんぜん出てこないですし。
未亡人の八雲さん(28)が、アパートの隣に1人で住む高校球児の大和クン(16)に餌づけをする話。タイトル通り。
それだけなのに、面白いんですよね。
これは、料理好きの八雲さん、朴念仁の大和クンという2人の主要キャラクターの魅力なんでしょうか。
3巻は、大和クンの妹「さくらちゃん」が出てきて、さらに楽しくなりました。
続きが楽しみです。

ちなみに、2巻に出てきたツナをしょうゆにつけてごはん食べるのは、まねしました。
おいしかった(笑)

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ハラ減った!!
(3巻65ページより)

八雲さんは餌づけがしたい。 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

秋の花

円紫師匠と私シリーズ3冊目。
今回は、「秋の花」という長編1本のみです。
しかも、人が死にます。
正直、「日常の謎」じゃなかったの?と叫びたくなりました。

「私」の三つ下の後輩、「津田さん」と「和泉さん」は仲良しの幼なじみ。文化祭の夜に津田さんが高校の校舎屋上から落ちて亡くなってしまう。その謎を追うストーリーです。
その謎が解けたとき、あまりに悲しくて、呆然としました。
でも、そうゆうことは、世の中起こる…。

北村先生は、謎はもちろんなんですが、小説としてのドラマがあるのがいいです。
登場人物たちは謎のためでなく、存在していて。

亡くなった津田さんをいろんな人が思い出して語るシーンが出てくるんです。
和泉さんが語る、津田さんと初めて出会った幼い日。
結城さんが語る、水泳の授業で長い髪を器用に水泳帽にしまっていた津田さん。
そのどれもが文章なのに、きらきらしていた場面だったことが分かります。

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「どうしてそう名付けたのだと思います」
はたと困った。
「さあ……」
「庭に断腸花が植えてあったからですよ」
「というと、秋海棠が?」円紫さんは頷いた。可憐なその花の風情には、いかにも似つかわしくないような気がした。「腸を断つ苦しみ、断腸の思いの花ですか」
「そうです。意外ですか」
「はい」
「人を思って泣く涙が落ち、そこから生えたといいます」
「……」
(254~255ページより)

秋の花 (創元推理文庫)

夜の蝉

円紫師匠と私シリーズ2冊目。
今回は、「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の3本仕立てです。
苦い、甘酸っぱい、ほろ苦い。
読後感はこんな感じです。
「私」に関わる女性3人、「正ちゃん」「江美ちゃん」「姉」にまつわるお話です。

特に「夜の蝉」は、きょうだいのいる人なら誰でも共感できる部分があるんじゃないかと思います。
幼い頃の思い出、自分と容姿の美しい姉との対比。
姉に襲いかかる「謎」の顛末はあまりに悪意に満ちたものですが、姉の強さにほれぼれします。

「朧夜の底」で推理される、正ちゃんの名前の由来も好き。

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「―結局はそういうことだよ。あんたはわたしをそう呼び、わたしはそう呼ばれる。あの時に気が付いたのはそれなんだよ。それから、わたしは変わった。あんたに対してどうこうっていうより先に、自分が変わったんだよ。いずれはそうなることだけれどね。人間が生きて行くってことは、いろんな立場を生きて行くっていうことだろう。拘わりとか役割とか、そういったことを理屈でなく感じる瞬間て必ず来るものだと思うよ」
 五歳上の瞳が私を見詰め口元は何かを懐かしむように緩んだ。それから、急に姉は《ほら、ご覧》と広い中庭の反対側を示した。
(267~268ページより)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬

作家の米澤穂信先生のファンなんです。
「小説野生時代」の2013年11月号の米澤先生の特集で、大学生時代に読んだ本として「空飛ぶ馬」と「六の宮の姫君」が紹介されていて、手に取りました。
実は、こんなシリーズ物だと知らず、近場の書店を何店か巡って見つけた時に「えっ」と動揺しましたが、シリーズ5冊買いました。ただいま、読破中です。

大学生の「私」が出合う「日常の謎」を、落語家の円紫さんが軽やかに解いていくシリーズの第一冊目です。短編が5本入っていて、彼女の一人称で話が進んでいきます。
名前は出てこない「私」の語り口が、コミカルで、暖かく、そして若くていい。
なんとなく、自分が大学生だったころに姿を重ねつつ読んじゃいますね。
部活ばっかりで、こんなさわやかな大学生活にご縁はありませんでしたが。

「砂糖合戦」と「胡桃の中の鳥」、「赤頭巾」とすこぶる後味が悪いです。
いいのは最初の「織部の霊」と「空飛ぶ馬」だけ。
でも、この後味の悪さが癖になる感じ。
ハッピーエンドばかりじゃないですもんね、世の中。

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「ゆきちゃん。秘密、どうした?」
私が声をかけると、ゆきちゃんは途端につまらなさそうな表情をして、
「あのねえ、ゆきちゃん、ひみつ、もうたべちゃったの」
(184ページより)

 

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)