未だに知らない

本や漫画、映画の記録帳です。

秋の花

円紫師匠と私シリーズ3冊目。
今回は、「秋の花」という長編1本のみです。
しかも、人が死にます。
正直、「日常の謎」じゃなかったの?と叫びたくなりました。

「私」の三つ下の後輩、「津田さん」と「和泉さん」は仲良しの幼なじみ。文化祭の夜に津田さんが高校の校舎屋上から落ちて亡くなってしまう。その謎を追うストーリーです。
その謎が解けたとき、あまりに悲しくて、呆然としました。
でも、そうゆうことは、世の中起こる…。

北村先生は、謎はもちろんなんですが、小説としてのドラマがあるのがいいです。
登場人物たちは謎のためでなく、存在していて。

亡くなった津田さんをいろんな人が思い出して語るシーンが出てくるんです。
和泉さんが語る、津田さんと初めて出会った幼い日。
結城さんが語る、水泳の授業で長い髪を器用に水泳帽にしまっていた津田さん。
そのどれもが文章なのに、きらきらしていた場面だったことが分かります。

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「どうしてそう名付けたのだと思います」
はたと困った。
「さあ……」
「庭に断腸花が植えてあったからですよ」
「というと、秋海棠が?」円紫さんは頷いた。可憐なその花の風情には、いかにも似つかわしくないような気がした。「腸を断つ苦しみ、断腸の思いの花ですか」
「そうです。意外ですか」
「はい」
「人を思って泣く涙が落ち、そこから生えたといいます」
「……」
(254~255ページより)

秋の花 (創元推理文庫)