未だに知らない

本や漫画、映画の記録帳です。

夜の蝉

円紫師匠と私シリーズ2冊目。
今回は、「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の3本仕立てです。
苦い、甘酸っぱい、ほろ苦い。
読後感はこんな感じです。
「私」に関わる女性3人、「正ちゃん」「江美ちゃん」「姉」にまつわるお話です。

特に「夜の蝉」は、きょうだいのいる人なら誰でも共感できる部分があるんじゃないかと思います。
幼い頃の思い出、自分と容姿の美しい姉との対比。
姉に襲いかかる「謎」の顛末はあまりに悪意に満ちたものですが、姉の強さにほれぼれします。

「朧夜の底」で推理される、正ちゃんの名前の由来も好き。

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「―結局はそういうことだよ。あんたはわたしをそう呼び、わたしはそう呼ばれる。あの時に気が付いたのはそれなんだよ。それから、わたしは変わった。あんたに対してどうこうっていうより先に、自分が変わったんだよ。いずれはそうなることだけれどね。人間が生きて行くってことは、いろんな立場を生きて行くっていうことだろう。拘わりとか役割とか、そういったことを理屈でなく感じる瞬間て必ず来るものだと思うよ」
 五歳上の瞳が私を見詰め口元は何かを懐かしむように緩んだ。それから、急に姉は《ほら、ご覧》と広い中庭の反対側を示した。
(267~268ページより)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)